真実の瞬間

2010年9月11日 日本歯科評論掲載

真実の瞬間

スペイ ンの国技である闘牛の最後に, 闘牛士が牛にと どめを刺す瞬間を 「真実の瞬間 (La hora de la verdad)」と言う。闘牛士と闘牛の生と死が衆人環視の中で交錯する。この間合いを「真実の瞬間」と呼ぶスペイン人の文化的・歴史的叡智に、わが国の歯科界の姿が重なって映る。「真実の瞬間」とは闘いの末に2つの魂が向かい合ったとき、普段纏っているベールを取り払い、互いの魂の奥に潜んだ自我に直接触れる、という危険を冒す瞬間でもある。その本質に迫るには、近代合理主義的認識を捨てて、気高く自由なドン・キホーテに思いを馳せるようなアナクロニズムに立ち返らなければ理解できないかもしれない。

歯科医師の勝利

われわれ歯科医師は、長年2大疾患と言われる齲蝕および歯周病と闘ってきた。われわれはこれらの原因である細菌を特定すつことに成功し、疾患を引き起こすに至るメカニズムを齲蝕学や歯周病学において解明し、公衆衛生やヘルスケアをもって彼らを追い詰めてきた。 2009年12月、中学1年制の齲蝕は「平均1,4本」というデータが発表された(学校保健統計調査速報)。データを取り始めた1984年には平均4,75本もあった齲蝕が3分の1に減少し、過去最低となった。この25年間、また少なくともその間、ヘルスケアとして定期的に通院している患者さんには、新たな齲蝕はほとんど見当たらなくなった。今日では修復物のやり直しが治療の主体になりつつあり、これまで臨床的に感じてきた齲蝕治療の情勢に変化が生じている。つまり、細菌に対するわれわれの優位が統計的に示されたわけである。 逆に近視は増えている。パソコンや携帯電話のディスプレイが原因であることは言うまでもないが、こうした新たな社会的要因により、一般的に22~23再で止まる禁止がそれ以降も増え続けているという。 かつて日本の高度経済成長期にも、このような現在の近視と同様の社会的要因が存在した。食生活が豊かになったこと、特に甘い食べ物の普及が齲蝕を増やすという結果を招いたのである。その後の甘い食べ物が普及し続けている現在において、われわれは食べ物自体をコントロールすることなく、その食べ方と原因菌のコントロールによって社会的要因を克服し、齲蝕を激減させた。歯科医師としてまさしく誇るべきことである。 1日に1回、細胞分裂をする藻に覆われる池の話がある。最初は池の片隅に藻があるだけで、少しずつ増えるに過ぎなかった。ある日池に行ってみると、その藻は池の半分に達していた。「まだ半分ある」と安心して帰ったが、翌日には、池の表面はすべて藻で覆われてしまっていたという話である。 同じことが歯科医療に関して言えるかもしれない。補綴や修復を中心とした臨床を続けながら、われわれはいつかその瞬間が来るということを心のどこかで感じているのではないだろうか。それはつまり、歯科医師としての使命を気高く全うしたことで、自らの首を絞め、補綴や修復では食べていけなくなる時代のことだ。 齲蝕や歯周病の病原菌との闘いの末、われわれは歯科医学が勝利を収める瞬間に刻々と近づいている。闘牛士と同様に、歯科医師にとって、その使命に専念してきた"真実の瞬間"のときである。


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